写真&レポート
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圧倒的強さで連勝中
黒山健一
2位になった小川友幸
3位の渋谷勲
国際A級スーパークラス
9月11日。トライアル全日本選手権第6戦。例年8月に開催されている北海道大会だが、今年は中国大会と時期を入れ替え、涼しくなったこの時期に開催された。和寒町のわっさむサーキットは、例年にならってモトクロスコースに沿って10セクションが設営されていたが、新たに作られた川のセクションなどの他、いつもの人工セクションも微妙に位置や設定を変えることで、選手には新たなトライを要求することとなった。いつもは暑さと戦いながらのトライアルとなるが、今回は、逆に朝など寒いくらい。9月の北海道は、すっかり秋の気配だった。

今シーズンは、黒山健一(ベータ)の連勝が続いている。黒山は、前の週に世界選手権ドイツ大会に参戦し、しかも試合中に肩を脱臼するというアクシデントに遭遇している。肩の故障、しかも時差ボケとの闘いをどう克服するか、課題は多いが、これも黒山のトライアルのテーマのひとつだ。黒山を追うべき当面の3人、田中太一(ガスガス)、渋谷勲(ヤマハ)、小川友幸(ホンダ)は、それぞれに克服すべき課題があって、なかなか思うように解決していない。田中太一は、体制面での不安があって、思い切った練習もままならない日々が続いている。渋谷は世界選手権へのモチベーションが高まってくるに従い、全日本との戦い方のギャップに空回りが目立つようになった。小川は、今シーズンから新たに乗りはじめた4ストロークマシンとのマッチングが、まだ完成の域に到達していない。

第1セクション、ライダーは長い牽制の末、トライをはじめた。尾西和博(ベータ)、井内将太郎(ホンダ)が5点、田中善弘(ガスガス)と小川毅士(ホンダ)が3点、成田匠(ヤマハ)、渋谷、田中、黒山と、次々にクリーンをたたき出す。こんな中、肩で斜面にもたれかかり、1点減点を喫したのが、小川だった。しかも当初、この1点が転倒の5点と採点されたので、小川としては、競技の最初から精神的に大きなハンディをしょって走ることになった。この採点は、2ラップ目に入るまでには修正されたが、小川がそれを知らされたのは2ラップめにカードを渡されたときで、1ラップ目の競技の間は、実際の点数よりも4点多い減点数を、自分の減点として戦わなければいけなかった。

恒例の、第2セクションの上り坂の頂点にあるビッグステップは、今年は勢い一発ではなく、合わせ技が必要になっていた。ここに苦しんだのが渋谷と田中。彼らは3回ともここを失敗して、減点を増やしていく。

第3セクションは林の中に配置された連続の岩々。ここでは岩に配置されたカードの位置をめぐって、しばしライダーと役員が意見調整。このため、競技時間が15分延長となる処置がとられた。カードの位置の見直しによって、ライダーは下見中とはちがうラインをトライすることになったが、黒山、小川はきれいにクリーン。渋谷が1点、田中が登れずに5点となった。この日の田中は田中らしい切れ味が感じられない。トップクラスの練習をする体制がとれないことからの練習不足だと、試合後に語っている。

一番奥の第4セクションも、岩の連続。スーパークラスのセクションにとしは、ひとつひとつの岩はそんなに大きなものではないが、比較的セクションのそばで観戦できるこの会場の場合、ギャラリーが受けるインパクトはかなり大きい。今回は、トライアルを初めて見る風情のギャラリーも多く見受けられ、ライダーのテクニックに驚愕の声を上げていた。初めてトライアルを見る観客にとっては、わっさむの会場はコンパクトで観戦もしやすく、セクション配置も観客にやさしいものといえる。

第5セクションは滑る森の中に配置されていた。IASのラインは滑る森の中のキャンバーを抜けていくから、黒山も「3点覚悟でトライします」と語っていたが、結果は見事クリーン。この時点ですべてのセクションをクリーンしている黒山と2位の小川では、早くも6点の点差ができてしまっていた。田中は、第2からこのセクションまでを連続して5点。黒山との差、20点。うまくいかないというより、近畿大会での悪夢がよみがえってくる展開だ。

今回のセクションの中では比較的イージーだった第6セクションは、ほとんどのライダーがクリーン、または1点で通過した。しかし唯一、渋谷が5点。ここまで、渋谷は黒山はともかく、小川は射程距離に入れて戦っていたが、このクリーンセクションでの5点から、状況はあやしくなってきた。

第7セクションでは、結果的に今回もっともむずかしいセクションとなった。上り坂が、ことごとく泥沼で覆われている。しかも最後には登るべき岩が控えていた。1ラップめにここを抜け出たのは、尾西の3点と田中の2点のみ。ほかは全員5点となった。黒山にも、ついに5点のスコアがマークされることになった。といっても、黒山はここまでにある程度のリードを築いているのを把握していたし、このセクションはほぼ全員が5点だから、ここでの失敗をそれほど深刻に受け止めず、勝利への試合パターンは崩れない。

第8セクションはこれも川の中に設けられたセクション。トップ4の中では小川と田中が1点。いわゆる難易度は高くはないが、百発百中でクリーンするのは、どんな名手でもむずかしいのが、今のIASセクションの数々だ。ここでは田中善弘が2点、成田匠が3点の他、5名のライダーがクリーンしている。

第9セクションも、人工的な岩の連続技。ここでまたも小川が1点。小川はここまで5個もの1点減点を並べて減点を加算してしまっている。今シーズンの小川は、マシンとのマッチングの問題から、信じられないような減点を重ねることが多かったが、今回はだいぶ小川らしさが復活してきた。しかしこういった細かい減点は、絶好調の小川のスタイルとは言いがたい。

最終セクションは、これもいつもおなじみ。大きな建材ブロックは、しかし上れるかどうかのぎりぎりの設定ではなく、いくぶん登りやすい位置に設定されていた。これが逆に、失敗したものと成功したものの点差を広めることになった。ここで渋谷が5点となり、中盤以降の崩れを挽回できず、逆に中盤以降、前半の不調をやや取りもどした田中と接戦の3位争いを演じることになる。1ラップが終わって、トップは黒山の5点(5点ひとつのみ)、小川が13点で8点差。田中が23点、渋谷が24点と、小川からさらに約10点差。前回までは、黒山健一と3人の2位争いという展開だったが、今回はふたりの3位争いと戦況が変わっている。

2ラップ以降、この展開に大きな変化は見られないが、細かくは、黒山が減点を増やし、小川が調子を上げてくるなど、いくらかの状況変化があった。黒山は不注意によると自己採点した第9セクションでのカード飛ばしの5点を含め、このラップは減点10。小川は減点9でまとめたから、その差を1点つめられたことになる。しかしそれでも、ふたりの点差はまだ小さくない。小川にすれば、一桁減点は悪くないが、1ラップめにクリーンした最終セクションで3点をとってしまっているから、まだまだ減点をつめられた可能性を残していた。けっして上出来とはいえない。渋谷と田中は、1ラップ目の乱調から減点を半分近くまで減らしてきたが、彼らの3位争いが小川を脅かすには至らず、試合は進んでいく。

3ラップ目、黒山は再び減点を一桁に戻し、6点で帰ってきた。難関の第7セクションでの5点と、比較的簡単な第8での1点が減点の内容だった。1ラップ目のクリーンの嵐から見ると、3ラップして減点21という数字は意外に多いという印象だったが、しかし小川には10点差。トップの座揺るぎなく、黒山健一の今シーズン5連勝(今大会は第6戦だが、第3戦が中止となっている)が決まった。もちろん全戦優勝である。

小川は今シーズン初めての2位入賞。終わってみれば黒山をもっとつめられる内容だっただけにくやしさもあるが、ひとまず2位表彰台復活ということに、かなり満足の様子だった。

渋谷と田中の3位争いは、接戦ながら渋谷が逃げ切り。渋谷は試合後、すべてのセクションを復習に出かけ、瞬く間に10セクションのすべてをクリーンした。トップライダーにはよくあることだが、試合の場で実力を発揮し切るのがいかにむずかしいかという現れだ。渋谷がマークした減点51は、ライディングテクニックの不足やマシンに問題があるからではないところに、深いものがある。

5位は小川毅士に1点差で成田匠。いつも気持ちの良い走りを見せる成田は、この日も調子よくセクションを走ったが、途中突然手指がつるトラブルに見舞われ苦しんだ。ウェアが微妙に手の動きをさまたげていたようだ。ほんの少しの道具の不調が、ライディングに影響を与えるのも、トップクラスのトライアルだ。

全日本ランキングは、2戦を残してもちろん黒山がトップ。2位争いは熾烈を極めている。なんとかランキング2位を守っている田中に対して、小川が同点で追いついてきた。さらに渋谷が1点差。2週間後のトライアル・デ・ナシオンには、この中では渋谷だけが参加する。さて、後半戦、2位争いはどうなるのか、もちろん、打倒黒山に手をかけるのは誰か、まだまだ目が離せない全日本選手権である。

【黒山のコメント】

「時差ボケもひどいし、肩も悪いです。だから勝ててよかったです。点数は正確にはわかりませんでしたけど、小川さんにもある程度アドバンテージがあったのを知っていましたから、第7セクションでも狙ってみようかと走って5点になりました。前回は時差ボケから逃れようと、自ら緊張感を高めるラインなど選びましたけど、今回はそんなことをするほどからだが動いていなかったので、余裕なしです。いつものように、オールクリーンなど考えていませんでしたが、どこか1ラップくらいは、全部クリーンしたかったですね」

【小川友幸のコメント】

「ようやく2位になれて、ほんとうによかった。よかったというより、ほっとしています。やはり、ライディング中に考えながら乗っているようでは、結果は出ませんね。今回は、ようやく、その点に進展がありました。黒山選手には、もっと迫れる余地がありましたから、まだまだ納得はできませんが、2位入賞で一息ついたというところです」

【渋谷勲のコメント】

「今日はやっちゃいました。6位くらいじゃないんですか? 腰も痛いし、セクション中にエンストがいっぱいあったし。もうぜんぜんだめでしたね」


優勝は坂田匠太
国際A級
強い三谷英明(ホンダ)、これを追う小森文彦(ホンダ)という今シーズンの展開。このIAS経験のある二人に対して、果敢に立ち向かうのが坂田匠太(ガスガス)だ。前回鳥取で5位となったが、5位のポジションが似あわないところに、坂田は成長している。

この日、ベストスコアは三谷と小森の8点。最多クリーンは三谷の19個だった。これに対して坂田は自己ベストスコアが9点、クリーンは16個。しかし3ラップをコンスタントにまとめたのは坂田だった。中盤、三谷がつめよったが、最後にまた坂田が調子をあげて、今シーズン2勝目をあげた。

ランキングでは、勝利は1回だけながら、2位以下になったことがない三谷が一歩リード。坂田は今回の勝利で、ランキング2位小森に1点差のランキング3位。今シーズンは、この3人が別格の戦いとなっているようだ。

【優勝した坂田のコメント】

「優勝できて、よかったです。今日はサポートとけんかもせずに、楽しく走れました。サポートは父親ですけど、いつもはけんかばっかりです。小森さんが4位ですね。もうちょっと崩れてくれたらもっとうれしかったのですけども(笑)」
 

高橋由
国際B級
高橋由(スコルパ)と辻真太郎(ホンダ)の若手同士のトップ争いが続く国際B級。今回は高橋に軍配が上がった。1ラップ目からリードを奪い、2ラップめにやや調子を崩すものの、ライバルも同じように調子を崩していたため、高橋は一度もトップを譲ることなく、今シーズン3勝目。残り2戦とも出場を決めているから、この先も辻とのランキング争いが楽しみだ。

今回はスコルパのインポーターである秋山宜仁も6年ぶりに全日本選手権に参加した。結果は15位。参加者25名で、選手権ポイントを1点獲得した。

【優勝した高橋のコメント】

「今日は2ラップ目が5点ばっかりで、だめでした。優勝はしてますけど、勝つことを考えて走っていないです。クリーンを目指して走ってますから、クリーンできればうれしいですけど、そうじゃなかったらだめですね。1ラップ目の6点だったらまぁまぁ、3ラップ目の9点は、ちょっととりすぎてますね。残り2戦も、クリーン目指して走ります」

 


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