写真&レポート
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安定した強さ
黒山健一の勝利
2位となった田中太一
3位の小川友幸
国際A級スーパークラス
8月7日。トライアル全日本選手権第5戦。昨年は9月に開催された中国大会が、今年はこの時期での開催となった。開催地は、昨年に引き続き2回目の、鳥取県鳥取市鹿野町ヒロスポーツランド。山深く広がる山林に設けられたセクションは、観戦者にちょっぴり軽登山を強いることになったが、自然の地形を走破するトライアルの醍醐味もまた感じられるロケーション。参加選手は、体力の消耗を嘆きながら、タフなトライアルを堪能していたようだ。

セクションは、大会本部の下方に1、2。山の上に向かって3から8が並んでいる。下りにかかり、7の向かいに9。本部の下側に10、そして本部裏に最終の11セクションが設営されていた。第4セクションは国際B級のみ。第8セクションは国際A級と国際A級スーパークラスのみがトライする。各クラスとも、競技は10セクション3ラップの勝負である。

セクション全体に、最近の全日本の例のとおり、そんなに難易度は高くないが、1分の時間設定が厳しいことなどで、きちんとクリーンしようと思えばそうとうに困難を伴う作業となる。それは、第1セクションで早くも証明されることになった。タイムオーバー、ゲートマーカーに触れる、あわてたトライでロックを登りそこねるなど、それぞれ失敗はさまざまだが、この最初のセクションを走破したのは3人のみ。最初にトライした井内将太郎(ホンダ)が3点、黒山健一(ベータ)と田中太一(ガスガス)がクリーン。その他の選手は、すべて5点となった。

渋谷勲(ヤマハ)は、このあと第2セクションでも5点となり、序盤にして絶望的な戦況となった。しかし試合はまだ始まったばかり。トライアルは、勝利をあきらめたものから、脱落していく。第3セクションは、スーパークラスの多くのライダーがクリーンを出したが、第1、第2と、黒山健一と並んで唯一クリーン合戦を繰り広げていた田中太一が2点の減点を取ってしまった。以後、2位以下の接戦を尻目に、黒山健一のみが快調にクリーン街道を突き進んでいくことになった。

黒山健一は、結局1ラップ目は10のセクションをすべてクリーン。1ラップにして、2位田中太一に12点ものリードを築いた。3位は渋谷で15点、4位に小川友幸(ホンダ)が16点で続いていた。前回1ラップめに最下位というショッキングな闘いぶりを演じてしまい雪辱戦となった田中太一、世界選手権参戦から帰国したばかりの渋谷、そしてマシンをスイッチして、まだまだ自分のライディングをマシンに合わせきれていない小川。2位争いは、それぞれがそれぞれの思惑と事情をかかえたまま、しかし黒山の勢いを止めることができない3人の間で熾烈に展開されていた。

2ラップ目、あわや全ラップオールクリーンかという勢いの黒山だったが、しかしここで黒山は、セクションに対してトライを始めた。世界選手権イギリス大会から数日前に帰ってきたばかりで、時差ボケに悩まされながらの混載の参戦。集中力を維持できるのは1ラップ目だけと、黒山は読んでいた。そのとおり、時差ボケに苦しみながらの2ラップ目、黒山はふつうなら試合では使わないようなラインやテクニックを使って、自身のコンセントレーションを維持しようとしたのかもしれない。この結果、黒山は2ラップめに3点、3ラップめに3点の減点を叩いた。しかしライバルとの点差をしっかり把握していた黒山は、結果、トップの座をまったく脅かされることなく、今シーズン全勝を続けている。

2位争いは、混戦だった。序盤は黒山についていくかと思われた田中太一だったが、1ラップ後半から減点を増やし、2ラップめには第8セクションで5点をとりつつも小計6点の好スコアをマークしたが、3ラップめに残り少なくなった持ち時間でトライが乱れ、点数を大きく増やして試合を終えた。結果的に2位の座を守れたのは、ラッキーだったと田中は評価する。

田中を1点差まで追いつめながら3位に甘んじた小川友幸は、いわばクリーンセクションであるヒルクライムの第9セクションで最初の2ラップとも5点となってしまったことなどで序盤の減点が大きく、3ラップ目に小計5点をマークしての追い上げも追いつかなかった。

世界選手権で経験を積み、しかしその成果が全日本で出しきれない渋谷勲。環境のちがい、トライアルのちがいなど、文化のギャップは、ヨーロッパで得た収穫をそのまま反映するのはむずかしいのかもしれない。

序盤第2セクションの岩登りでハンドルが折れるというアクシデントに遭遇した小川毅士(ホンダ)がその後よく挽回して5位。今回は小川毅士にわずかに及ばず成田匠(ヤマハ)が6位と続いた。序盤の好調から、中盤以降失点を重ねてしまった井内将太郎が7位、なかなか試合をまとめきれない尾西和博(ベータ)が8位、田中善弘(ガスガス)が9位という結果だった。

【黒山のコメント】
「2ラップ目は、時差ボケでふらふらでした。それを読んでいたんで、とにかく1ラップ目は集中して走ろうとがんばりました。そしたら1ラップ目である程度点数も開いたので、点差を確認しながら、新しいトライなどしながら試合を進めました。オールクリーンをするのが目的ではなくて、勝つのが目的ですから。最近は、世界選手権ではずっと7位ですが、走り自体は、今回の全日本も世界選手権も、いい走りができてるんです。それを結果に結びつけるべく、今は次のドイツ大会のことに目が向いています。ドイツからデ・ナシオンまで、全日本の北海道や中部大会をはさみながら毎週試合です。がんばりますが、かなりのハードスケジュールなので、ぼくもこんな調子を維持できるとは限りません。どこかでミスが出るかもしれないし、安心はしていません」

【田中太一のコメント】
「2位を守りきったなんて印象はまったくありません。小川さんたちが追いついてこなかったので、ラッキーだったというだけです。毎回マシンのセッティングなどに悩んでいるんですが、今回は、石に乗ったときなどの挙動で悩みました。もしかすると、過激なライディングに対して、そろそろフレームなどの使用限界になってるのかもしれません。今回は、3ラップ目の減点がいただけないです。その挙動の問題もあったし、持ち時間が残り40分を切っちゃって、ばばばと走ってしまったからというのもありました。でも、なんとかトップグループに復活したいというのが今回の目標でしたから、今回でリズムをつかんでこれからにつなげたいですね」

【小川友幸のコメント】
「今回は事前にかなり乗り込んで、マシンの仕上がりも上々で、気合いを入れて試合に臨んだのですが、それだけに結果には納得できないし、とてもくやしいです。マシンはどんどんよくなっていますが、まだ走らせ方を悩みながらセクショントライをしている段階で、自分の手足になってマシンを操縦しているという感覚には至っていません。マシンがどんどんよくなるので、その都度ライダーとマシンのマッチングも変わっていくのが悩みですが、よくなっているのは確かなので、とにかくそろそろ結果を出したいところです。勝敗はともかくとしても、トップ争いができる、お客さんに緊張感を持ってもらえるような闘いを、もう一度してみたい。次の北海道あたり、実現したいものです」


白神孝之が逆転勝利
国際A級
近畿大会以来出場となった白神孝之(シェルコ)。スーパークラスでも通用するライディングテクニックを持ちながら、勝利することがほとんどない、いわば無冠の帝王の白神。今回も第1セクションで5点をとると、その後10セクションでも5点となって、1ラップにして勝利は絶望的となってしまったのだが、それが逆に功を奏した。

勝利はないものとあきらめ、しかし納得いく成果を残したいと、2ラップ目3ラップ目はオールクリーンで10のセクションを回ることに専念した。2ラップ目、第6セクションで不用意な足つきがあり1点減点。3ラップめに再びオールクリーンに挑戦するが、10セクションで、やはり不用意な1点。ついにオールクリーンならずで、くやしながらゴールした白神だったが、2ラップ3ラップを1点ずつで終えたことで、減点数にしてトップとタイ、クリーン数の差で勝利を得ることになった。

白神に同点で2位に甘んじることになったのは三谷英明(ホンダ)。開幕戦で優勝して以来、これで3戦連続の2位入賞となった。ランキング的には、ぶっちぎりのトップだが、三谷もまた、国際A級での勝利数は、今シーズン開幕戦での1回のみという、いわば無冠の帝王同士の、今回のトップ争いだった。

リザルト上、7位まではスーパークラスの経験者が6名を占めるが、近畿大会での勝者、坂田匠太(ガスガス)が5位と踏ん張っている。

【優勝した白神のコメント】
「1ラップ目の第1セクションから5点になって、今日は勝つのはあきらめてました。でもそれじゃ帰れないと思って、ラップだけでもオールクリーンをすれば、自分に納得ができると思ってがんばったのですが、それも1点ずつ足をついてしまって、かないませんでした。今日の勝利は、運がよかっただけです。今シーズンは、たぶん出場できるのはこれで最後になると思いますが、これでまた、来年もチャンスを見てつけて気持ちよく参加できるかなという感じです」
 

初優勝の辻真太郎
国際B級
出れば勝利する高橋由(スコルパ)だったが、遠征疲れか、1ラップめに大乱調。21位と出遅れた。その機に乗じて、持てる実力をきちんと発揮してきたのが辻真太郎(ホンダ)。9、8、10と減点数も安定して、国際B級初勝利を得た。2戦続けての2位がよほどくやしく、乗り込みや走り込みを徹底的におこなっての今回の勝利。ランキングでも、高橋と辻は同点に並んだ。チャンピオン争いは、がぜんこの二人の間でおもしろくなってきた。

近畿大会に続き、体力的にきつい会場とあって、ベテラン勢からは弱音も多く聞かれたが、終わってみれば、今回のリザルトはベテラン、若手、地元勢と、バラエティに富んだ顔ぶれとなった。

【優勝した辻のコメント】
「今回、高橋選手が出るということで、負けられないぞと気合いを入れて試合に臨みました。2試合つづけての2位がとてもくやしかったので、走り込みをしてからだを作ったり、ターン系の練習を重点的にやったり、課題を持って練習に取り組んできたのですが、その成果が出てよかったです。今回は5点がひとつ、それもタイムオーバーの5点でしたから、それもうれしいことのひとつです。近畿の時は、ぼくが1ラップを終えたときには高橋選手はもう試合を終えていて、ぼくの1ラップの減点数より2点多いだけで3ラップを終えていた。それを知ったとたんに先進的にがたがたになって崩れてしまったので、とにかく乗り込んで自信をつけることをテーマにしましたが、その成果が出て、よかったです」

 


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