3月27日。トライアル全日本選手権第2戦。昨年と同様のスケジュールで、熊本県菊鹿町矢谷渓谷キャンプ場で開催された。昨年は、桜が満開ですっかり春の陽気だったが、まったく同じ時期にもかかわらず、今年の桜はまだつぼみ。九州ではここのところ、日曜日のたびに寒さに見舞われるとのことで、春はまだ遠い感じの全日本となった。しかも日曜日は、朝からしとしと雨。雨量は多くないが、土の斜面に設けられたセクションは、コンディションが一変した。 前回、ニューマシンの全日本デビューでの活躍を期待され、しかし6位とまったく不本意な結果を残してしまった小川友幸(ホンダ)が、今回の序盤のヒーローだった。黒山健一(ベータ)が第1セクションで足を出し、さらに第2でも2点をつくなど、セクションふたつを終えたところで減点0のライダーは早くも小川一人になってしまった。第1戦とはまったく正反対の試合展開だ。 小川は落ち着いてトライしている上、雨でコンディションが悪化する前にできるだけ多くのセクションをトライしようとしてか、他のライバルに先がけてどんどんセクションをトライしていく。従来、トライが早いのは成田匠(ヤマハ)のスタイルだったが、その成田をも置いて、小川はライバルよりもふたつほどセクションを先行する。そして、ことごとくセクションをクリーンしていく。この展開を続けていけば、ライバルにも無言のプレッシャーを与えることができる。 第1戦の序盤で好調を見せた渋谷勲(ヤマハ)は、今回は序盤から乱れを見せた。5セクションまでの間に12点をとるという乱調ぶりで、優勝を争う状況とはほど遠い。渋谷は、世界選手権第2戦からの参加を目指してヨーロッパ行きを計画中だが、ヨーロッパ行きに華を添える戦況とはいいがたい。 渋谷ほどではないが、田中太一(ガスガス)も序盤でつまずきがあった。しかし今年の田中は、失敗があっても以前ほどに精神的に乱れを見せなくなったようで、試合全体を見つめて、たくましくトライを進める姿勢が見られる。 黒山は、序盤に数点の減点をとって小川友幸に遅れをとっているが、特に不調ということではなく、後半戦に向けて、こつこつとクリーンを積み上げていく。走っていく中で、自分の調子を取り戻し、ライバルの脱落を待つというのが、序盤で失点したときの黒山の勝ちパターンだ。 前回黒山を相手に善戦した野崎史高(スコルパ)は、すでにヨーロッパに旅立っていて今回は欠席。その他、前回エンジントラブルで本領を発揮できなかった田中善弘(ガスガス)も、仕事の都合上、今回の大会を欠席している。 今年からマシンを2ストローク250に乗り換えた成田匠は、昨年までの誰よりも早くトライを進める試合展開を少し見直したような印象で、ライバルたちとほぼ同じペースで試合を進める。しかし残念ながら、トップ4人とは少しずつ減点数に差が開いていく。スピーディにトライを進めるポイントでは成田の本領発揮だが、ホッピングを重ねてラインを修正するようなポイントでは、こういったテクニックの練習不足からか、足が出やすいようだ。 シーズンオフの負傷から、まだ完全には復帰していない小川毅士(ホンダ)は、それでもずいぶん状況が好転したようで、苦しい戦いながらリザルトも好転。2年生仲間の井内将太郎(ホンダ)とIASルーキーの尾西和博(ベータ)にリードして試合を進めている。井内、尾西は、滑るコンディションに苦戦している。 小川友幸の好調は、しかし第5セクションまでだった。第6で1点の足つき。これはまだ戦況を動かす要素とはならなかったが、次の第7セクションのヒルクライムで、これも誰よりも先にトライした小川は登りきれずに5点。小川のつけわだちを利用したライバルは、クリーンをするか、もしくは足をついてもみなセクションを走破している。ごき第7セクション、1ラップ目に5点となったのは、小川一人だった。 この5点が、小川のコンセントレーションに影を落とした。続く第8セクションで、大岩を登りきれずに5点。序盤の好調はどこへ、小川は一気に黒山の逆転を許し、ライバルたちの争いに飲み込まれた。渋谷、田中も、序盤の乱れを克服して点数をまとめてきたので、小川とは熾烈な2位争い。1ラップ目は、渋谷、小川、田中の3人が減点17で横一線で並ぶ展開となった。黒山はたったの4点で、ひとり別世界にいる。 2ラップ目、戦況に大きな変化はない。黒山はコンディションの悪化によってわずかに減点を増やしたもののトップは安泰。2位争いも、渋谷と小川が34点、田中が35点と、3人とも一歩を引かない。興味は優勝争いを離れて、2位争いに集中する。 3ラップ目、2位争いの小川にアクシデントが降りかかる。1ラップ目にはクリーンしていた第4セクションの大岩登りで失敗。滑り落ちるマシンと立ち木の間に腕をはさまれてしまった。競技は気力で続行するも、ゴールしたとたんに、小川の腕から力は抜け、ものももてなくなってしまった。3ラップ目は、IASのライダーは全員時間に追われていて、ほぼ全員がたった30分の間に10セクションを消化して回ってくるという強行軍だった。小川のアクシデントは、こんな中で発生した。 アクシデントはなかったものの、点数的には小川以上の事件に発展してしまったのが渋谷だった。渋谷は3ラップ目に、それまでの減点よりも10点以上も多い29点を叩き、2位争いから完全に脱落した。2戦続けて、終盤に崩れる悪いパターンを見せている。 渋谷の崩れで、負傷しながらも2位が安泰かと思われた小川だが、しぶといライダーは他にもいた。田中太一が不本意な減点に怒り発奮しながら、つとめて冷静なトライを展開、3ラップ目を11点にまとめてきた。これでも、本人にすればいたく不満足な点数だったが、2位争いに決着をつけるには充分な点数だった。結果、小川に3点差をつけて逆転2位。田中は、2戦続けて、終盤にポジションを浮上させるという粘りを見せた。 黒山は、1ラップ目中盤からはまったくの横綱相撲で、まったく危なげなし。2位との点差29点。トリプルスコアに近い勝利となった。2位以下が混戦模様なので、ランキング場も黒山には有利で、トップの黒山と2位の田中の間には、早くも8点の点差がついている。 【黒山のコメント】 「序盤何点か減点がありましたが、特に調子が悪かったとかということではありません。寒くて、ちょっとからだの動きが硬かったかもしれませんが、こんなものでしょう。 序盤の小川さんの調子がよかったのも、気にはしていませんでした。 自分のトライをきちんとするのが、結果、よいリザルトを生むわけですから。 今年これまでの2戦、いい勝利を続けていますが、ぼくがうれしいのは、ここまでの2戦で、まだ5点がひとつもないということです」 |
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