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今年も開幕戦を制した黒山健一
黒山と接戦を
響かせたヤマハTY-S125F改
4ストエンジン搭載
RTL250F を走らせる小川友幸

国際A級スーパークラス

3月13日。トライアル全日本選手権開幕戦は、茨城県真壁トライアルパークで、1800人の観客を集めて開催された。

天気はよかったものの、気温は低く、風は冷たかった。選手を追ってセクションからセクションへ移動するにはよいが、選手のアクションをじっと見守るには、ちょっと寒すぎる環境となった。セクションは、設営場所に工夫がされ、観戦者が多くの距離を歩かずに次のセクションに移動できるようになっていて、集まった熱心なファンはもちろん、トライアル観戦経験の浅いお客さんにも、無理なくトライアルを楽しめるような配慮がされていたようだ。

今年も、世界選手権と全日本選手権を全戦参戦して、6度目の全日本タイトルを狙う黒山健一(ベータ)に対して、一矢報ようとすきをうかがうライバルたち。活躍の舞台のメインを世界選手権とする野崎史高(スコルパ)も、世界選手権のシーズンを前に今大会に参加している。また、昨年4ストローク125ccベースのマシンで戦い話題を作った成田匠(ヤマハ)は、今年は再び2ストローク250ccマシンで参戦。勝負にこだわっての、新たな挑戦を見せてくれることになっている。

ニューフェイスは田中善弘(ガスガス)と尾西和博(ベータ)。かつて藤波と全日本チャンピオンを争った田中、自転車トライアルのチャンピオン経験を持つ尾西が、新たなキャラクターを持って、選ばれた者だけが走ることができるこのクラスに挑むことになる。

ホンダのニューマシン、RTL250Fの担い手である小川友幸(ホンダ)、昨年黒山を破って初優勝した田中太一(ガスガス)、世界へのトライも精力的におこなった渋谷勲(ヤマハ)は、まず1勝を狙い、昨年熾烈なルーキー争いを展開した小川毅士(ホンダ)と井内将太郎(ホンダ)も新しい4ストロークマシンで勝負をかける。

試合は、1点を争う熾烈なものとなった。そそり立つ壁の中に、さらに設けられた関門の数々。しかしトップライダーたちは、足をつくことなく、次々とセクションを走破していく。勝利は、とにかく減点をしないものの頭上に輝く。卓越したライディングテクニックもさることながら、そのテクニックを正確に発揮する、究極の精神力が要求される。

第1セクションで5点をとってしまい、いきなり出鼻をくじかれたのは田中太一、小川友幸、小川毅士。田中は、一見大きなちがいには見えないが、マシンを昨年の280から300に変更した。このちがいが、田中の感覚をわずかに狂わせていた。アクセルを大きく開けて操作していく瞬間に、マシンが田中の思ったのとはちがう反応を示す。トップライダーたちは、マシンを自分のからだのように扱うから、マシンの変化は、新たな性能を得るメリットの反面、こういったデメリットも大きい。小川友幸は、これまでとは全面的にマシンが変わって4ストロークニューモデルでの戦い。トライアルの4ストローク化に向けての、大きなトライとなるが、慣熟期間は短く、しかも当日朝になって小川仕様のサスペンションにトラブルが発生して“手足のような感覚”とはほど遠い状態で開幕戦に臨むことになっていた。若手のホープ小川毅士は、シーズンオフに背中を強打するアクシデントに遭遇し、今回は出場がやっとという状態だ。

クリーン合戦を展開するのは、チャンピオン黒山健一、渋谷勲、野崎史高の3人。強風の中、第3セクションで風にあおられて野崎がふらつき足をつくと、減点0を並べているのは、黒山と渋谷の二人だけになった。これまで2年にわたって、世界選手権へのスポット参戦を続けてきた渋谷だが、今年はさらに本格的な参戦の計画もあるという。その計画の実現のためにも、そろそろ全日本での1勝がほしいところ。

しかしその期待が大きく膨らむ1ラップ目の第9セクションで、渋谷はセクション外を走った減点をとられ、大きな痛手を負った。減点はこれひとつだけだったが、5点ひとつで渋谷は3番手に後退。野崎が2番手にせりあがった。

1ラップ目の11セクションをすべてクリーンしたのは、黒山健一ただ一人。黒山の集中力はすばらしく、ライディングは正確で、乱れがない。それでも、3ラップの33セクションにわたってオールクリーンするのは運が大きな要因を占める。トライアルは究極のバランスの上で成り立っているから、タイヤの下の小さな石がころりと崩れただけで、足をついたり転倒したりするリスクも秘めている。細心の注意を払い、そんなリスクを最小限に抑えるのがトップライダーの技術だが、それでも1日のうちには、いくつか避けられないミスも発生する。2ラップ目、黒山は第9セクションで1点減点する。しかしこの日の直接のライバルとなった野崎もまた、第2セクションで1点の減点を追加していて、その点差1点のまま、3ラップ目に突入する。

山の上の上まで、途中で体制を整えながらも一気に登る第5セクション、黒山がさらに1点を追加するが、ここで野崎は致命的なミスを犯してしまった。山肌に向かうその瞬間、野崎のタイヤは本来狙う位置から、わずか数cmずれてしまった。小石ひとつのいたずらの結果だ。これが、山の中腹で野崎にひとつめの足を出させる。さらにバランス修正に耐える野崎。ところがここで我慢をしすぎて、野崎のマシンは斜面でわずかに後退してしまった。5点だ。バランス修正の代わりに、足をついていれば、ここでの減点は2点に抑えられたかもしれない、野崎の集中力は、この5点で、わずかに乱れを生じた。これが、10セクションで、さらに1点の減点を加えてしまうことになる。

結果的には、優勝争いは野崎が第5セクションで最初に足をついた時点でなかば決着していたということになるが、野崎が食い下がることで黒山の集中力に影響が出る展開もあったわけで、今回は風に足をつかされた1点と、小石ひとつによる数cmのラインの乱れが、野崎から勝利を奪い、黒山の開幕戦優勝を決定づけたことになる。
序盤、黒山と優勝争いをした渋谷は、ひとつの5点で一気に乱れ始めて、逆に序盤の減点から確実に劣勢を挽回してきた田中太一に3位の座を奪われる結果となった。昨年のもてぎで、RTL250Fデビュー戦を誰もが驚く好成績でまとめた小川友幸だったが、全日本でのデビュー戦を飾ることはできず、なんと6位と低迷。その小川を破って5位を得たのは、250ccに復帰した成田匠だった。

【黒山のコメント】
「オールクリーンは狙ってできるものじゃないですから、2点という今回の成績には、まず満足しています。このところの全日本の中では、もっともうれしい勝利です。正直なところ、ここの大会にあるような地形は、ぼくのふだんの練習場にはなくて、あまり得意とはいえないパターンだったのですが、それだけにまずパーフェクトに近いかたちで勝つことができたのがうれしいです。シーズンオフにやってきたトレーニング、練習方法、マシンのセッティング、それらが、まちがっていないという証明にもなりました。いろいろな意味で、価値ある、うれしい勝利です」

 


初優勝の三谷英明

国際A級

若手ライダーの台頭に加えて、過酷なセクション設定のスーパークラスから、このクラスに新天地を求めたベテランライダーたち。国際A級は、さまざまな才能がぶつかり合う。その群雄割拠が、このクラスの魅力でもある。

勝利を得たのは、結果的には1ラップ目からトップを守った三谷英明(ホンダ)。HRCのテストも担当する三谷は、藤波貴久の乗るワークスマシンの開発にも従事する。しかし一方、自分用のマシンでの練習時間はほとんどないというハンディもある。自分の試合用マシンに乗るのは、この試合が2回目という、練習のできないライダーの代表格が三谷なのだ。すでに33歳。トップライダーとしては大ベテランの域に入るが、しかし三谷は、今回の勝利が自身国際A級初優勝。やはり優勝は別格とのことだが、初優勝には最大の賛辞を贈りたい。

チームの先輩である三谷に遅れをとったのは、スーパークラスに参戦しながら1年のブランクを経て復帰してきた小森文彦(ホンダ)。試合の勘を取り戻すのに時間がかかったか、1ラップ目9位と出遅れ、しかしラップごとに確実に原点を減らして、3ラップ目には国際A級では唯一ラップオールクリーンを達成した。

初の3位を得たのは、坂田匠太(ガスガス)。国際A級3年目の四国期待の若手のホープ。そろそろベテラン勢の中に割って入りたいタイミングだったが、今回はその足がかりをつかんだかっこう。4位に本多元治、5位に日下達也と実力派が並べば、6位にはなんと、国際B級ランキング2位で今年からA級に昇格してきた野本佳章が入った。昇格1年生としては、大快挙だ。

【優勝した三谷のコメント】
「スーパークラスからこのクラスに降格してくると“勝ってあたりまえ”と言われるのはわかっていたけれど、今回もテストがあってヨーロッパから帰国したばかりで、練習はほとんどしていない。いい条件とはいえない中で優勝できて、やはり“あたりまえ”ではなくて、うれしいです。スーパークラスでは、クラッシュの心配ばかりしていましたけど、それに比べてA級ではそういう心配がなくて、やさしいにはやさしいんですが、その分、すべてをきっちり走らないと、5点ひとつで順位が5〜6番ちがってしまいます。やはり、勝つのはとてもむずかしいクラスだと感じました。だから、やっぱり勝ててうれしいです。33歳にして初優勝。やっぱり優勝はちがうもんですね」」

 


接戦の末に優勝した高橋由

国際B級

岩手の高橋由がこのクラス初優勝。去年、惜しいところで国際A級への昇格切符を逃したが、国際B級での活躍が楽しみな展開になってきた。

その高橋と1点を争ったのが小倉昌也。1ラップも2ラップも高橋と同点だったが、3ラップ目にわずか1点減点を多くとってしまって初優勝を逃したが、今シーズンの勢力図が、早くも見えてきたような第1戦の結果である。

3位は、奇しくも昨年の開幕戦と同じく関東勢の鈴木暢斗が入った。序盤は出遅れたが、確実に減点を減らして3ラップ目の減点6は、この日の国際B級のベストラップとなった。

昨年のデ・ナシオンで日本チームの2位獲得に貢献した今回の紅一点高橋摩耶は49位。国際B級の水に慣れるのにしばらく時間を要するかもしれないが、実力の片鱗は見せていた。

【優勝した高橋のコメント】
「小倉くんと、1、2ラップは同点だったので、これはちょっとミスをすると、順位もがたっと落ちる気がしていたので、ミスをしないように気をつけて走りました。ミスをしないようにと神経を使うところがしんどかったです。第1戦で優勝と、いきなりこういう結果になったのはすごくうれしいです。こうなったからには、全戦優勝するつもりでいます。次も、がんばります」」

 



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